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在宅勤務で残業を減らす方法|原因の切り分けと終業を守る設計
在宅勤務になってから残業が増えた、という声は珍しくありません。通勤時間が消えたのに、気づけば夜まで画面の前にいる。オフィスなら周りが帰るから帰るという区切りがあったのに、自宅にはそれがない。
こうなると多くの人は、自分の意志が弱いせいだと考えます。しかし在宅で労働時間が伸びるのは、個人の性格よりも働く環境の構造が原因です。厚生労働省のテレワークガイドラインも、テレワークでは使用者の管理の程度が相対的に弱くなること、業務に関する指示や報告が時間帯にかかわらず行われやすくなり、仕事と生活の時間の区別が曖昧になることを、長時間労働につながるおそれとして明記しています。
構造が原因なら、対策も構造側に置けます。この記事では、残業の発生源を4つに仕分ける自己診断から始め、法令で決まっている枠、終業を守る1日の設計、連絡のルール、仕事を切る基準、上司との合意、環境側の仕組みまでを順に整理します。労働時間の扱いは会社の就業規則によるため、制度に関わる部分は自社の規程と上司に確認しながら読み進めてください。
なお、作業時間をどう記録するかは別記事、仕事と私生活の切り替え方も別記事で扱っています。ここでは残業そのものを減らすことに集中します。
在宅で残業が増えるのは意思の問題ではない
まず、なぜ在宅だと時間が伸びるのかを言語化します。原因が構造にあると分かれば、精神論に逃げずに手を打てます。
境界が消える
オフィス勤務では、通勤・フロアの移動・照明が落ちる時刻・同僚の退勤といった外側の合図が、勝手に区切りを作ってくれていました。在宅ではその合図がすべて消えます。机は同じ、椅子は同じ、画面も同じまま、18時を過ぎても何も起きません。
区切りが無い状態では、きりのいいところまで、という判断が毎日発生します。この判断は毎回わずかに終業を後ろへ動かし、積み上がると週に数時間の差になります。
連絡が非同期になる
在宅では、相手の状況が見えないままメールやチャットが飛び交います。ガイドラインが指摘するとおり、業務に関する指示や報告は時間帯にかかわらず行われやすくなります。
この非同期性は二重に効きます。日中は通知のたびに作業が中断され、実作業が進まない。そして夕方以降に届いた依頼が、そのまま今日の残りの仕事として積まれる。日中の生産量が下がり、夜の仕事量が増えるという組み合わせが起きます。
タスクの進み具合が見えない
オフィスなら、机の上の書類の山や、隣の席の様子で進み具合が伝わりました。在宅ではそれが全部不可視になります。自分の負荷が周囲に伝わらないため、仕事が追加され続けます。逆に自分からも、いま何をどれだけ抱えているかを説明する機会がありません。
見えないものは調整されません。業務量の偏りは、誰かが可視化しない限り放置されます。
3つは同時に起きて、症状は同じに見える
境界の消失・連絡の非同期化・進捗の不可視は、別々の問題ですが、結果はどれも夜まで仕事をしているという同じ形で表面化します。だから対策を1つだけ試して効かず、自分には無理だと結論しがちです。
必要なのは、自分の残業がどの発生源から来ているかを先に切り分けることです。
残業の発生源を仕分ける12問の自己診断
残業の原因を4つの型に分け、それぞれ3問ずつで判定します。直近2週間を思い出して、当てはまるものを数えてください。
タイプA 業務量そのものが多い
- 割り込みがまったく無い日でも、所定時間内には終わらない量を抱えている。
- 自分の担当業務が、この半年で明確に増えた(人員減・兼任・新規案件のいずれか)。
- 同じ役割の同僚も同じように遅くまで作業している。
タイプB 段取りが決まらず手戻りが出る
- 提出したあとに意図が違うと言われ、作り直したことが直近2週間で1回以上ある。
- 着手する時点で、完成形のイメージが自分の中で固まっていないことが多い。
- 判断に迷う点を、聞かずに自分で推測して進めることが多い。
タイプC 中断で作業が進まない
- 1時間以上、誰にも遮られずに1つの作業を続けられた日が、直近2週間でほとんど無い。
- チャットやメールの通知が来ると、作業中でもだいたい見てしまう。
- 集中が必要な仕事を、結局は定時後の静かな時間に回している。
タイプD 終業の区切りがない
- 終業時刻を、その日の朝の時点で決めていない。
- きりのいいところまでと思って続けた結果、予定より30分以上延びる日が週に3日以上ある。
- 夕方以降に来た依頼を、その日のうちに片付けることが多い。
結果の読み方
各タイプで2問以上当てはまったものが、あなたの主な発生源です。複数該当することは普通で、その場合はこの記事の並び順ではなく、当てはまった数が多い型から手を付けてください。
型ごとに、この記事のどこを読めばよいかは次のとおりです。
| 型 | 主な発生源 | 優先して読む箇所 |
|---|---|---|
| A | 業務量 | 上司・チームと合意しておくこと/長時間労働が続くときの安全弁 |
| B | 手戻り | 残業になる前に仕事を切る4つの基準 |
| C | 中断 | 会議とチャットの返信ルールを自分側で決める |
| D | 区切り | 終業を守る1日の設計/作業環境で終業を強制する仕組み |
タイプAが強く出た場合、個人の工夫だけで解決できる範囲を超えています。その場合は自分の段取りを直すより先に、業務量の調整を相談する段階に進んでください。
在宅でも労働時間のルールは変わらない
工夫の話に入る前に、前提として決まっている枠を押さえます。ここを知らないまま自己流で頑張ると、本来は会社が対応すべきことを個人で背負い込むことになります。
労働時間の原則は1日8時間・週40時間
労働基準法第32条は、使用者は労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはならず、1週間の各日については1日について8時間を超えて労働させてはならないと定めています。在宅勤務でもこの原則は変わりません。
休憩は労働時間の途中に与えられるもの
労働基準法第34条は、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を、労働時間の途中に与えなければならないと定めています。
在宅では休憩を飛ばして早く終わるという発想になりがちですが、休憩は途中に与えられるもので、まとめて終業側に寄せる性質のものではありません。休憩を削って終業を早めても、残業が減ったことにはなりません。
時間外労働には労使協定と割増賃金が必要
労働基準法第36条は、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、またはそれが無い場合は労働者の過半数を代表する者との書面による協定を締結し、行政官庁に届け出た場合に、協定で定めるところによって労働時間を延長し、または休日に労働させることができると定めています。これがいわゆる三六協定です。
厚生労働省のテレワークガイドラインも、テレワークの場合においても、使用者は時間外・休日労働をさせる場合には三六協定の締結・届出や割増賃金の支払が必要であり、深夜に労働させる場合には深夜労働に係る割増賃金の支払が必要である、と明記しています。自宅だから残業代が出ない、ということはありません。
時間外労働の上限
労働基準法第36条は、協定で定める延長時間の限度時間を、1か月について45時間および1年について360時間としています。通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴う臨時的な場合、いわゆる特別条項でも、休日労働を含めて1か月100時間未満、複数月の平均で1か月あたり80時間以下、1年について720時間を超えない範囲とされ、45時間を超えることができる月数は1年について6か月以内と定められています。
厚生労働省の働き方改革特設サイトも同じ内容を、大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用されるものとして解説しています。
| 区分 | 1か月の上限(時間) | 1年の上限(時間) | 45時間超が可能な月数(か月) |
|---|---|---|---|
| 原則 | 45 | 360 | 0 |
| 特別条項がある場合 | 100未満(休日労働を含む) | 720 | 6 |
| 特別条項の複数月平均 | 80(休日労働を含む) | — | — |
この数字は、自分の残業が多いのか異常なのかを判断する物差しになります。感覚ではなく線で見ることで、相談すべきかどうかの判断がつきます。
終業を守る1日の設計
ここからが個人でできる範囲です。まず、終業を守るための1日の形を作ります。要点は、開始・中断・終了の3点を固定することです。
終業時刻を先に置き、始業から逆算する
朝の最初にやることは、今日の終業時刻を決めることです。作業を並べてから終業を決めるのではなく、終業を置いてから、その枠に入る量だけ並べます。
順序が逆になるだけで、判断の質が変わります。枠が先にあると、入りきらない仕事を朝の時点で見つけられます。枠が無いと、入りきらないことに気づくのは夕方で、そのときには選択肢が残業しかありません。
午前と午後の間に、戻れる中断を1つ作る
在宅では、昼の休憩が形骸化しやすくなります。画面の前で食べながら作業を続けると、午後の集中が落ち、その分が夜に回ります。
休憩は労働時間の途中に与えられるものである以上、途中で取ることが前提です。席を離れる時刻を決め、戻る時刻も決めてください。戻る時刻を決めておくと、休憩が延びることも防げます。
終業30分前を締めの時間にする
終業時刻ちょうどまで手を動かしていると、片付けと引き継ぎのぶんだけ延びます。終業の30分前を締めと決め、新しい作業には着手せず、次の3つだけを行います。
- 今日の作業のうち、中途半端なものを翌日に引き継げる状態にする。
- 未返信の連絡を確認し、明日の回答になるものはその旨だけ返す。
- 明日の最初にやる1件を決めて、目に入る場所に書いておく。
この30分があると、翌朝の立ち上がりが早くなります。立ち上がりが早いと午前の生産量が増え、結果として夜の仕事量が減ります。
終業を外に向けて宣言する
区切りは、自分の中だけに置くと崩れます。家族や同居人に終業時刻を伝える、チームの連絡手段に退勤の一報を入れるなど、外に向けた宣言を1つ用意してください。宣言は守るためのものではなく、破ったときに自分で気づくためのものです。
記録は最小限でよい
残業を減らす目的なら、細かい時間記録は不要です。始業・終業・休憩の3点だけ残せば、週末に合計を出して傾向を見るには足ります。記録の目的別の粒度や手段の選び方は、在宅勤務の作業時間を記録する方法で詳しく整理しています。
会議とチャットの返信ルールを自分側で決める
タイプCが強い人向けの対策です。中断は、意志で減らすものではなく、ルールで減らすものです。
返信の速さは業務の質ではない
すぐ返さないと失礼になる、という感覚は、オフィスで隣にいた時代の名残です。非同期の連絡手段は、もともと相手の時間を奪わないために作られています。緊急でない用件なら、数時間後の返信で支障が出ることはほとんどありません。
むしろ、作業を中断して返した短い返信が誤解を生み、往復が増えることのほうが多く起きます。
確認の回数を1日3回に固定する
チャットとメールを見る時刻を、始業直後・昼休憩の前後・終業の締め、の3回に固定します。回数を決めることの効果は2つあります。
- 見ていない時間に、まとまった作業時間が生まれる。
- 相手にとっても、返信が来る時間帯が読めるようになる。
完全に見ないことが難しい職場なら、緊急の連絡だけ別の手段にしてもらうと現実的です。電話や特定のチャンネルだけ通知を残し、それ以外は切ります。
会議を減らす前に、会議の外側を減らす
会議そのものを減らす権限は、多くの場合こちらにありません。代わりに、会議の前後に発生している時間を削ります。
- 議題が不明な会議は、開始前に目的を1行で確認する。招集側に聞くだけで、出席の要否が決まることがあります。
- 会議の直後5分で、自分の宿題だけを書き出す。後でまとめて議事録を読み返す時間が消えます。
- 連続する会議の間に、最低10分の間隔を空けてもらう。移動が無い在宅では、この間隔が無いと記録も整理もできません。
時間外に届いた連絡の扱いを決めておく
終業後に届いた依頼を、その日のうちに着手するかどうかを、あらかじめ自分の中で決めておきます。判断を毎回その場で行うと、届いた瞬間の勢いで着手してしまいます。
原則は、翌営業日の朝に着手し、受領の一報だけ翌朝に返す。例外を認めるのは、障害対応など、明確に緊急性が定義されている場合だけです。この原則は、次の章で扱う上司との合意に含めておくと守りやすくなります。
残業になる前に仕事を切る4つの基準
タイプBが強い人向けの対策です。残業は、終業時刻の直前ではなく、着手を決めた時点で発生しています。だから切る判断も、着手前に行います。
基準1 今日が締切か
今日中に必要かどうかを、依頼文の表現ではなく実際の締切で確認します。至急、なるはや、今日中といった言葉は、依頼側の希望であって締切とは限りません。確認の一言で翌日に動くことは珍しくありません。
基準2 他人が待っているか
自分が終えないと誰かの作業が止まるものは、優先度が上がります。逆に、自分の中で完結する作業は、翌日に回しても被害が出ません。優先順位は重要度ではなく、止まっている人の数で決めると判断が早くなります。
基準3 15分で終わるか
終業間際に着手してよいのは、15分以内に確実に終わるものだけです。15分を超える見込みのものは、途中で終業時刻を迎え、結局あと少しで延びます。見積もりが15分か30分か迷った時点で、それは翌日の仕事です。
基準4 明日の自分が高くつくか
今日やらないことで、明日の作業が明らかに重くなるものだけは、例外的に今日片付けます。たとえば、他部署への確認のように、依頼を出すのに数分、返答を待つのに1日かかるものは、今日のうちに出したほうが総量が減ります。
切った仕事の置き場所を決める
切る判断が続かない大きな理由は、切った仕事が行方不明になる不安です。翌日の最初に見る場所を1つ決め、切ったものはそこに書きます。置き場所があると、切ることが先送りではなく配置に変わります。
見積もりは倍で置く
自分の見積もりは、ほぼ常に短く出ます。着手前に思いついた時間を2倍にして予定に入れてください。2倍にして終業までに収まらないなら、その日のうちに誰かに相談する材料になります。見積もりの精度を上げるより、短く見積もる癖を前提に補正するほうが早く効きます。
上司・チームと合意しておくこと
タイプAが強い場合、ここが本丸です。個人の段取りでは解決しません。
業務量は感覚ではなく一覧で見せる
忙しいという言葉は、受け取る側で解像度が下がります。抱えている案件を一覧にし、それぞれの締切と残り見込み時間を並べて見せてください。数字が並ぶと、感想ではなく調整の話になります。
一覧に含めるのは、案件名・締切・残りの見込み時間・待ちの有無の4項目で足ります。細かくしすぎると作るのに時間がかかり、続きません。
優先順位を決めるのは自分ではない
すべてを期限内に終えられない状況で、何を落とすかを自分だけで決めると、後で評価の食い違いが起きます。落とす判断は依頼側または上司に返してください。
伝え方は、できないという否定ではなく、選んでもらう形にします。3文で足ります。
- いま抱えているのはこの3件で、締切はそれぞれこの日です。
- 所定時間内に全部は入りません。
- どれを先に出すか、あるいはどれを別の人に回すかを決めてください。
時間外の連絡の扱いを相談する
厚生労働省のテレワークガイドラインは、長時間労働を防ぐ手法として、役職者・上司・同僚・部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効であるとし、メールのみならず電話等の方法も含め、時間外等における業務の指示や報告の在り方について、業務上の必要性や労働者の対応の要否等を踏まえ、使用者がルールを設けることも考えられるとしています。
つまり、時間外の連絡を抑えるのは本来会社側が設けるルールです。制度が無い職場でも、チーム内の運用として時間外の連絡は翌営業日対応を原則とする、と決めるだけなら、合意のハードルは高くありません。
相談は記録が残る手段で行う
口頭で済ませると、言った言わないになりやすく、繰り返し同じ説明が必要になります。業務量の調整や時間外の扱いは、メールやチャットなど後から見返せる形で相談してください。これは相手を疑うためではなく、次に同じ状況が来たときに説明をやり直さないためです。
厚労省ガイドラインが示す会社側の対策と、本人ができる申し出
厚生労働省のテレワークガイドラインは、テレワークにおける長時間労働等を防ぐ手法として5つを挙げています。いずれも会社が実施するものですが、本人の側から使える形に置き換えられます。
ガイドラインの5つの手法
- メール送付の抑制等。時間外等のメール送付の自粛を命ずること、電話等も含めた指示・報告の在り方のルールを使用者が設けること。
- システムへのアクセス制限。所定外深夜・休日は事前に許可を得ない限り社内システムにアクセスできないよう使用者が設定すること。
- 時間外・休日・所定外深夜労働についての手続。労使の合意により、時間外等の労働が可能な時間帯や時間数をあらかじめ使用者が設定し、手続等を就業規則等に明記し、労働者に書面等で明示すること。
- 長時間労働等を行う労働者への注意喚起。労働時間の記録を踏まえて管理者が行う方法や、労務管理のシステムで自動で警告を表示する方法。
- その他。勤務間インターバル制度も、テレワークにおいて長時間労働を抑制するための手段の一つとして考えられること。
会社がやることと、本人が申し出られることの対応
| ガイドラインの手法 | 会社が行うこと | 本人が申し出られること |
|---|---|---|
| メール送付の抑制等 | 時間外のメール送付の自粛、指示と報告のルール策定 | チーム内で翌営業日対応を原則にする合意を提案する |
| システムへのアクセス制限 | 所定外深夜・休日のアクセスを許可制にする設定 | 自分の端末で終業後の業務アプリの通知と自動起動を切る |
| 時間外等の手続 | 時間外労働が可能な時間帯・時間数の設定と就業規則への明記 | 残業の事前申請の運用があるか確認し、無ければ確認を求める |
| 長時間労働者への注意喚起 | 労働時間の記録に基づく注意喚起、システムによる警告 | 自分の月間の時間外の合計を把握し、線を超える前に相談する |
| その他の勤務間インターバル | 終業から次の始業までの休息時間の確保 | 深夜まで作業した翌日の始業をずらせるか相談する |
制度が無い会社でどう使うか
上の表の右列は、制度が無くても今日から動かせるものだけを並べています。左列の制度化を待たずに、まず右列を実行し、その結果を持って左列を相談するという順序が現実的です。実行した記録があると、制度の必要性を説明しやすくなります。
作業環境で終業を強制する仕組み
意志ではなく設定で終業を守ります。タイプDに効きます。
通知を時間で止める
業務用のチャットやメールの通知を、終業時刻で自動的に止めます。多くのアプリには、時間帯を指定して通知を止める設定があります。手動でオフにすると、オンに戻し忘れるのではなくオフにし忘れるので、時間指定にしてください。
スマートフォン側も同様です。仕事用のアプリだけを対象に、時間帯で通知を止める設定にします。
終業後にアクセスできない状態を作る
ガイドラインは、所定外深夜・休日は事前に許可を得ない限りアクセスできないよう使用者が設定することを有効としています。会社側の設定が無い場合でも、自分の端末側でできることがあります。
- 業務用のアプリを終業時に終了し、自動起動の設定を切る。
- 業務用のブラウザのプロファイルを閉じる。
- 業務用の端末を、作業スペースの外へ物理的に移す。
いずれも、再開に一手間かかる状態を作るのが目的です。手間がゼロだと、夜に少しだけ、が成立してしまいます。
勤務間インターバルという考え方
ガイドラインは、勤務間インターバル制度もテレワークにおいて長時間労働を抑制するための手段の一つとして挙げています。終業から次の始業までに一定の休息時間を確保する仕組みです。
制度として導入されていなくても、考え方は個人でも使えます。夜遅くまで作業した日は、翌日の始業を後ろにずらせないかを相談する。ずらせないなら、その日は重い作業を入れない。遅くまで働いた翌日を通常どおり詰めることが、長時間労働を次の日へつなげる大きな原因です。
仕事の道具を視界から外す
終業後に仕事の道具が目に入る状態だと、区切りは何度でも崩れます。片付けの具体的な方法や、場所・道具・合図の作り方は、在宅勤務で仕事とプライベートを切り替える方法で扱っています。
残業が減らないときの原因別対処
ここまでを試しても減らない場合、次のどれかが起きています。
対処1 仕事量が実際に多い
段取りの改善では埋まりません。業務量の一覧を作り、落とす判断を上司に返す段階です。それでも変わらず、時間外労働が月45時間の線に近づく月が続くなら、後述の安全弁を使う場面です。
対処2 割り込みが上司から来る
自分側のルールでは防げない割り込みです。通知を切っても、依頼そのものは消えません。この場合は、割り込みが来た時点で今抱えている仕事のどれを後ろにずらすかをその場で確認するのが現実的な対処です。ずらす対象を決めずに受けると、その分がそのまま残業になります。
対処3 完成度を上げすぎている
社内向けの資料に、社外提出物と同じ手間をかけていないかを見てください。求められている水準を確認せずに作ると、判断がすべて自分の基準になり、際限なく時間を使えます。着手前に、どの程度の仕上がりでよいかを一度確認するだけで時間が変わります。
対処4 日によって波が大きい
平均では収まっているのに、特定の曜日だけ大きく延びる場合があります。定例会議の翌日、月末、特定の取引先の依頼日など、原因は固定していることが多いものです。1か月の記録を見て、延びる日が決まっているなら、その日の予定を最初から軽くしておきます。
やってはいけないこと
残業を減らす過程で、かえって状況を悪くする行動があります。
申告しない時間外労働を常態化させる
終業を宣言したあとに、記録に残さないまま作業を続けることは、残業が減ったのではなく見えなくなっただけです。記録上の労働時間が短くなると、業務量の調整も、健康面の措置も働かなくなります。時間外労働には割増賃金の支払が必要であり、記録に残らない時間はその対象からも外れます。
記録と実態をずらす
実際と違う時刻を申告することは、会社の労働時間管理を成り立たなくします。長時間労働への注意喚起も、面接指導の仕組みも、記録された労働時間を起点に動きます。起点が崩れると、安全弁そのものが機能しません。
休憩を飛ばして終業を早める
休憩は労働時間の途中に与えられるもので、削って終業を前倒しするための余白ではありません。休憩を飛ばした日は午後の効率が落ち、結局その分が夜に戻ってきます。
一度に全部を変える
診断で4つの型すべてに当てはまった人ほど、全部を同時に変えようとします。同時に変えると、何が効いたのか分からず、うまくいかなかったときに全部をやめてしまいます。当てはまった数が多い型から、1つずつ入れてください。
長時間労働が続くときの安全弁
工夫でも合意でも改善しない場合に、制度として用意されている出口があります。
月80時間という線
労働安全衛生規則第52条の2は、休憩時間を除き1週間あたり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が1か月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者を、医師による面接指導の対象となる労働者の要件として定めています。
同条は、事業者に対し、その超えた時間が1か月あたり80時間を超えた労働者に、当該超えた時間に関する情報を通知しなければならないとも定めています。つまり、線を超えた場合は本人に時間数が知らされるのが本来の状態です。
面接指導は本人の申出で始まる
労働安全衛生規則第52条の3は、面接指導は要件に該当する労働者の申出により行うものとし、事業者は労働者から申出があったときは遅滞なく面接指導を行わなければならないと定めています。産業医が申出を行うよう勧奨することができるとも規定されています。
要件に当てはまるのに何も起きない場合、待つのではなく申し出る仕組みだ、と知っておくことに意味があります。
相談先
社内で解決しない場合、各都道府県の労働局や労働基準監督署が相談先になります。労働時間や割増賃金の扱いは会社ごとの規程と実態によるため、自分の勤務記録を持参して具体的に相談するのが早道です。
筆者の判断基準
この記事を構成するにあたって、どこまでを個人の工夫で扱い、どこからを制度の話に渡すかは、次の基準で分けています。
- 個人の工夫で扱うのは、自分の裁量だけで完結する範囲まで。終業時刻の設定、通知の停止、着手の判断、見積もりの補正は、許可を取らずに明日から変えられます。ここは工夫が届く領域です。
- 他人の行動が絡んだ時点で、合意の話に切り替える。割り込み、依頼の量、時間外の連絡は、自分側のルールだけでは止まりません。ここで個人の努力を続けると、残業が見えなくなるだけで総量は減りません。
- 数字の線を超えたら、制度の話に渡す。時間外労働が月45時間に近い月が続く、あるいは月80時間の線に届く場合は、段取りの改善ではなく業務量そのものの調整と健康面の措置の領域です。
- 効果の断定はしない。ここで挙げた方法がどれだけ時間を減らすかは、業務内容・職場の運用・裁量の範囲で変わります。数字で示せるのは法令の枠だけで、工夫の側は自分で2週間試して記録と比べてください。
よくある質問
終業時刻を決めても、夕方に上司から依頼が来ます
依頼が来ること自体は止められません。止められるのは、受けた依頼を無条件に今日の仕事にすることです。受けた時点で、今日抱えている仕事のどれを後ろにずらすかを確認してください。ずらす対象が決まらないまま受けると、差分はすべて残業になります。なお、時間外の指示や報告の在り方については、厚生労働省のテレワークガイドラインが、使用者がルールを設けることも考えられるとしています。繰り返し起きるなら、チームの運用として相談する対象です。
残業を申請しないで作業した時間は、どう扱えばよいですか
記録に残すべき時間です。時間外・休日労働をさせる場合には三六協定の締結・届出や割増賃金の支払が必要であり、これはテレワークでも同じです。申請の運用がある職場なら、事後でも申請の可否を確認してください。記録から外れた時間は、業務量の調整にも、長時間労働者への注意喚起にも、面接指導の要件の計算にも反映されません。
在宅のほうが残業が増えるのは、自分だけの問題でしょうか
構造的な要因が知られています。厚生労働省のテレワークガイドラインは、テレワークでは使用者と離れた場所で勤務するため相対的に使用者の管理の程度が弱くなること、業務に関する指示や報告が時間帯にかかわらず行われやすくなり、仕事と生活の時間の区別が曖昧となり、生活時間帯の確保に支障が生ずるおそれがあることを挙げ、長時間労働による健康障害の防止やワークライフバランスの確保への配慮が求められるとしています。個人の資質の問題として片付ける前に、この記事の診断で発生源を切り分けてください。
参照した公式情報(取得日)
| 出典 | 確認した内容 | 取得日 |
|---|---|---|
| 厚生労働省 テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン | 長時間労働対策の5手法、時間外・休日労働と三六協定・割増賃金、勤務間インターバル | 2026-09-11 |
| e-Gov法令検索 労働基準法 | 第32条の労働時間、第34条の休憩、第36条の協定と限度時間・特別条項 | 2026-09-11 |
| 厚生労働省 働き方改革特設サイト 時間外労働の上限規制 | 上限の数値と適用が始まった年 | 2026-09-11 |
| e-Gov法令検索 労働安全衛生規則 | 第52条の2の面接指導の要件と情報の通知、第52条の3の申出による実施 | 2026-09-11 |
まとめ:構造を変えてから終業を守る
在宅勤務で残業を減らす手順は、次のとおりでした。
- 発生源を切り分ける。業務量・手戻り・中断・区切りの4つの型を、12問で判定する。
- 枠を知る。労働時間の原則、休憩の位置、三六協定と割増賃金、時間外労働の上限。
- 1日を設計する。終業を先に置き、休憩を途中に取り、終業30分前を締めにする。
- 連絡にルールを置く。確認は1日3回、時間外の依頼は翌営業日対応を原則にする。
- 着手前に切る。締切・待っている人・15分・明日の負荷の4基準で判断する。
- 合意に渡す。業務量は一覧で見せ、落とす判断は依頼側に返す。
- 設定で守る。通知を時間で止め、再開に一手間かかる状態を作る。
- 線を超えたら制度を使う。月45時間・月80時間は、相談と申出の目安になる。
まずは12問の診断で、自分の型を1つ決めてください。全部を同時に変えるより、効く場所を1つ選んだほうが早く変わります。


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