キャスターなしのオフィスチェアという選択|失うものと、その埋め方

キャスターなしのオフィスチェアという選択|失うものと、その埋め方 デスク環境

本ページはプロモーションが含まれています

在宅の机に向かっていると、少し体を動かしただけで椅子がすーっと後ろに逃げる。床をのぞきこむと、細い線がいつのまにか増えている。「キャスターなしのオフィスチェア」を探し始める動機は、だいたいこの2つに集約されます。

ただ、そこで最初に決めてしまう前に、ひとつ確かめておきたいことがあります。床の傷と「勝手に動く」を止める方法は、キャスターを外すことだけではありません。 そして、キャスターをなくすと椅子は静かで安定する代わりに、いくつかの便利さを確実に手放すことになります。

この記事では、まず選べる道を3つ並べて使い分けを整理し、そのうえで「キャスターをなくす」を選んだ場合に何を失い、それをどう埋めるかまでご案内します。椅子そのものの選び方の全体像は在宅ワーク向けオフィスチェアの選び方にまとめています。

「キャスターなし」にする前に、道は3つある

同じ悩みに対して、実際に選ばれている解き方は3つあります。どれが良いかではなく、自分の部屋と座り方でどれが成立するかの話です。

向いているのは 手元に残るもの 手放すもの
①キャスターを静音タイプに交換する 椅子自体に不満はなく、音と床の傷だけが問題 高さ調整・移動のしやすさ・今の座り心地 差し込み部の規格を調べる手間
②チェアマットを敷く 椅子は替えたくない/賃貸で床を面で守りたい 椅子の機能はすべてそのまま 床の面積と、マットが見えること
③キャスターをなくす(この記事) 座る位置がほとんど動かない/動くこと自体が困る 動かない安定感・掃除しやすい床面 立ち座りの軽さ・机との距離の微調整・多くは高さ調整

①と②はいまの椅子を活かす道、③は椅子ごと、あるいは脚まわりごと替える道です。①の具体的な進め方は椅子のキャスターを静音タイプに交換する方法に、②の判断はチェアマットはフローリングに必要かに書いています。

ここから先は、③を選ぶかどうかを決めるための話です。

キャスターをなくすと、何を失うのか

商品一覧を眺めていると、キャスターなしの椅子は「静かで床にやさしい椅子」に見えます。実際そのとおりなのですが、日常の動作としては次の4つが同時に変わります。

1. 立ち座りが重くなる。 キャスター付きの椅子は、座るときに椅子を後ろへ転がし、腰を下ろしてから前へ引き寄せる、という動きが無意識にできています。脚が床に接地したままの椅子では、この「引き寄せ」が持ち上げるか、ずらすかの動作になります。1日に何度も繰り返す動きなので、ここが一番はっきり変わります。

2. 机との距離を微調整できなくなる。 書類を広げたときに数cm下がる、キーボードを打つときに少し前へ出る。キャスターはこの微調整を無意識にやってくれています。固定脚の椅子では、座る位置を最初に決めて、そこで固定することになります。

3. 掃除のときに動かしにくい。 床を拭く、ロボット掃除機を通す、といった場面で椅子をどける必要があります。転がせない椅子は、持ち上げるか、引きずるか(=床に負担がかかる)のどちらかになります。軽さが掃除のしやすさに直結するのは、キャスターなしを選んだときに初めて効いてくる観点です。

4. 座面の高さ調整も、同時に失いやすい。 ここが見落とされがちです。オフィスチェアの高さ調整はガスシリンダーが担っていて、それは脚の中心軸にあります。キャスターなしの椅子として売られているものの多くは4本脚のダイニングチェア型で、座面高が固定です。つまり「キャスターをなくす」を選ぶと、多くの場合「高さを後から直せない」も同時に選ぶことになります。

参考までに、厚生労働省の情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインでは、椅子の要件として、安定していて容易に移動できること、床からの座面の高さが作業者の体形に合わせて適切な状態に調整できること、が挙げられています。これは事業者向けの労働衛生管理の文書で、家庭の在宅ワークを規定するものではありませんが、キャスターなしを選ぶということは、この2つの要件をあえて外す選択であるとは言えます。だからこそ、外すぶんを自分で埋める設計が要ります。

それでも「なくす」が正解になる4つの条件

失うものを並べたうえで、それでもキャスターなしが合う場面ははっきりしています。次のどれかに当てはまるなら、③は十分に筋の通った選択です。

  • 床がフローリングで、傷を避けることが最優先。マットを敷けば守れますが、床の見た目をそのまま活かしたい、部屋の面積をマットに使いたくない、という場合は、転がるものを置かないほうが早い解決になります。判断に迷うならチェアマットはフローリングに必要かで、敷く場合のコストと効果を先に確認してみてください
  • 座る位置がほぼ固定。デスクと椅子の位置関係が決まっていて、作業中にほとんど動かないなら、微調整できる価値は小さく、動かない安定感のほうが利きます
  • 小さな子どもやペットがいて、勝手に動くと危ない。座ろうとした瞬間に椅子が逃げる、寄りかかった拍子に動く、という挙動そのものをなくしたい場合です
  • 床が畳やカーペット。そもそもキャスターが転がりにくく、毛足に沈んで抵抗になったり、畳を傷めたりします。キャスターの利点が出にくい床では、なくしても失うものが少なくて済みます

逆に、椅子の上で頻繁に体を動かす作業をする、あるいはまだ机の位置が固まっていないなら、①か②を先に試したほうが後悔が少ないでしょう。

買う前に決める2つの数字:座面高と、机との差

キャスターなしを選ぶと決めたら、次にやることは商品を眺めることではありません。自分に合う座面の高さを、先に数字にしておくことです。高さ調整を手放す以上、この数字が合っていないと後から直せないからです。

目安になる計算式が公表されています。一般社団法人日本オフィス家具協会(JOIFA)の「安心・安全なイスの選び方」では、座面の高さの目安を身長の4分の1、机と座面の高さの差(差尺)の目安を身長の6分の1としています。式にすると次のとおりです。

  • 座面高の目安 = 身長 ÷ 4
  • 差尺の目安 = 身長 ÷ 6
  • 合う机の高さ = 座面高 + 差尺

たとえば身長160cmなら座面高は40cm、身長172cmなら43cmが出発点になります。この数字を持ってから商品ページの座面高を見ると、候補は一気に絞れます。

そのうえで、確認したいことがもうひとつ。ガイドラインが基本の姿勢としているのは、椅子に深く腰をかけて背もたれに背を十分にあて、足裏全体が床に接した状態です。座面高が固定の椅子では、この「足裏全体が床に接する」が届くかどうかが、そのまま合否になります。計算値より高い椅子しか選べないときは、足台を用意する前提で考えてください。

出発点としてイメージしやすい一例を挙げます。4本脚のシェル型で、外寸は幅62cm×奥行60cm×高さ80cm、座面高は44cm、耐荷重100kg、重量7.8kgと記載されています。肘付きで座面にウレタンのクッションが入るタイプです。座面高が明記されているので、先ほど計算した自分の数字とそのまま比べられます。これが最適解という意味ではなく、照合の基準としてご覧ください。

計算した高さと製品の座面高が数cmずれる場合は、座面側のクッションで詰めるという手もあります。厚みのぶんだけ座面が上がるので、下げたいときには使えませんが、上げたいときには有効です。選び方はデスクチェア用クッションの選び方にまとめました。腰まわりが気になる状態で椅子を替える場合は、在宅ワークで腰が痛いときの椅子の調整もあわせてどうぞ。なお、痛みやしびれが続く場合は、道具で対処する前に医療機関へご相談ください。

座る位置が決まっているなら、小さく低い椅子も合う

キャスターなしを選ぶ人は、たいてい「座る位置が決まっている人」です。位置が決まっているということは、椅子の外寸を詰められるということでもあります。動かさない前提なら、後ろに引くための余白も要りません。

もうひとつ、先ほど挙げた「掃除のときに動かしにくい」への現実的な答えが、軽さです。持ち上げてどけられる重さなら、床を引きずらずに済みます。転がらない椅子では、重量はスペックの中でも生活に直結する数字になります。

小ぶりなタイプの一例を挙げます。外寸は幅55×奥行48×高さ64cm、座面高は約42cm、重量は約5kg、耐荷重は約100kgと記載されています。先ほどの例と比べると、奥行きが浅く座面も低めで、重量も軽い構成です。狭いデスクまわりや、座面高の計算値が低めに出た場合の候補になります。

床にもっと近い座り方まで含めて考えるなら、椅子そのものを見直す選択肢もあります。ローデスクや床座で作業している場合は、座椅子で腰をラクに支える選び方が参考になります。

立ち座りの重さを埋める:回転座面という折衷

キャスターなしで一番こたえるのは、やはり立ち座りです。ここには、「引く」動作を「回す」動作に置き換えるという折衷案があります。脚は床に接地したまま、座面だけが回るタイプです。

椅子を後ろに引かずに体の向きを変えられるので、机との間の狭いすき間でも出入りができます。実際、こうした回転タイプの商品説明でも、椅子を後ろに引く余裕がない場面や、毎日椅子を上げ下げする手間を省きたい場面が想定されています。キャスターの「転がる」は失ったまま、「出入りのしやすさ」だけを取り戻す考え方です。

あわせて効くのが肘掛けです。肘掛けがあると、立ち上がるときに腕で体重を分けられるので、椅子を引けないぶんの負担を減らせます。キャスターなしを選ぶなら、肘掛けの有無は見た目より実用の観点で見ておくとよいでしょう。

そして脚裏です。接地したまま滑らせる使い方になるので、脚の裏にフェルトなどの保護材が付いているか、後から貼れる形状かを確認しておくと、床の傷を防ぎやすくなります。

なお、いまの椅子の座り心地が気に入っているなら、椅子はそのままで脚まわりだけ替える道も残っています。差し込み式のキャスターを抜いて、固定脚やグライドと呼ばれる転がらない部材に差し替える方法です。ただし差し込み部(ステム)の直径と長さが合わないと付かないため、規格の確認が先になります。この確認手順は椅子のキャスターを静音タイプに交換する方法の「今の椅子の規格を確認する」がそのまま使えます。静音キャスターに替えるか、転がらない部材に替えるかが違うだけで、測る場所は同じです。

まとめ:床材、座る位置、座面高の順で決める

キャスターなしのオフィスチェアは、「床にやさしい椅子」という以上に、動かないことを前提に机まわりを固定する選択です。決める順番は次のとおりです。

  1. 床材を見る:畳・カーペットなら③の不利は小さい。フローリングなら、まず①静音キャスターへの交換と②チェアマットと比べる
  2. 座る位置が動くかを見る:動かないなら③が成立する。まだ机の配置が固まっていないなら①か②で様子を見る
  3. 座面高を先に数字にする:身長÷4を出し、製品の座面高と照合する。足裏全体が床に接するかまで確認する
  4. 失うぶんを埋める:立ち座りは回転座面と肘掛けで、掃除は軽さで、床の保護は脚裏の保護材で埋める

そのうえで、椅子を丸ごと替えるほどでもないと感じたなら、脚まわりの部材だけを替える道もあります。どの道を選ぶにせよ、椅子全体の考え方は在宅ワーク向けオフィスチェアの選び方に戻って確認してみてください。転がらない椅子は、位置が決まっている人にとっては、静かで手のかからない相棒になります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました